Drama
all age range
2000 to 5000 words
Japanese
雨がしとしとと降り続く、梅雨の終わりかけの東京。空は鉛色で、まるで人々の心模様を映し出しているようだった。そんな中、古びたビルの3階にあるビジネス教育出版社の小さなオフィスでは、いつもと変わらぬ朝が始まろうとしていた。
千葉史郎は、50代半ばの編集者。メガネの奥の目は、長年の経験と苦労が刻み込まれた深い皺の奥で、静かに光を放っていた。彼はビジネス教育出版社に20年以上勤め、数々のビジネス書や自己啓発書の編集に携わってきた。
しかし、最近の出版業界は厳しい。デジタル化の波に押され、紙媒体の売上げは減る一方。 ビジネス教育出版社も例外ではなく、経営は苦しい状況に陥っていた。今日も、史郎は重い足取りで出社した。
オフィスに入ると、若手社員の田中と佐藤が、難しい顔をしてパソコンに向かっていた。田中は企画部、佐藤は営業部に所属している。二人とも優秀だが、最近は明らかに疲れている様子だった。
「おはようございます、千葉さん」田中と佐藤は、史郎に気づいて挨拶をした。その声には、いつもの明るさがなかった。
「おはよう。どうした、二人とも顔色が悪いぞ」史郎は心配そうに尋ねた。
「実は…」田中は言いづらそうに口を開いた。「先日の会議で、社長から早期退職の募集があるかもしれない、と言われたんです。」
史郎は息を飲んだ。早期退職…それは、会社が危機的な状況にあることを意味する。彼は、これまで会社のために身を粉にして働いてきた。まさか、自分がその対象になるとは思ってもみなかった。
「そうですか…」史郎は、絞り出すように答えた。動揺を悟られないように、平静を装うのが精一杯だった。
その日の午前中は、企画会議だった。議題は、新たなビジネス書の企画について。しかし、参加者全員がどこか上の空で、積極的な意見はほとんど出なかった。
会議の後、史郎は一人、屋上に出た。雨は止み、薄日が差していた。遠くには、高層ビルが立ち並び、忙しなく行き交う車の音が聞こえる。彼は、深呼吸をして、心を落ち着かせようとした。
(自分が、これからどうすればいいのだろうか…)史郎は、自問自答した。20年以上勤めた会社を辞めることになったら、一体何ができるのだろうか。再就職は難しいかもしれない。貯金も、それほど多くはない。
その時、一冊の本が目に留まった。それは、数年前に史郎が編集した、ある経営者の自伝だった。その本には、困難な状況を乗り越え、成功を収めた経営者の言葉が、力強く綴られていた。
(そうだ…諦めるわけにはいかない)史郎は、心に決めた。たとえ会社を辞めることになっても、自分の経験と知識を生かして、何か新しいことに挑戦しよう。
その日の午後、史郎は社長室に呼ばれた。社長は、厳しい表情で史郎を見つめた。
「千葉君、君には長年、会社に貢献してもらった。感謝している。」社長は、ゆっくりと話し始めた。「しかし、残念ながら、会社の状況は厳しい。そこで、君に早期退職を勧めることになった。」
史郎は、覚悟していたとはいえ、やはりショックを受けた。しかし、彼は平静を保ち、こう答えた。「承知いたしました。長年、お世話になり、ありがとうございました。」
社長は、史郎の毅然とした態度に、少し驚いたようだった。「千葉君、君は優秀な編集者だ。今回のことは、本当に申し訳なく思っている。もし、何か困ったことがあれば、いつでも相談してほしい。」
会社に戻ると、田中と佐藤が心配そうな顔で史郎を見つめていた。「千葉さん、どうでしたか?」田中が尋ねた。
「早期退職が決まった」史郎は、率直に答えた。二人は、言葉を失った。
「千葉さん…そんな…」佐藤は、涙ぐんでいた。史郎は、二人の肩に手を置いた。「心配するな。俺は大丈夫だ。これから、何か新しいことを始めるつもりだ。」
田中と佐藤は、史郎の言葉に勇気づけられた。「千葉さん、私たちも何かお手伝いできることがあれば、何でも言ってください」田中は、力強く言った。
史郎は、二人の言葉に、感謝の気持ちでいっぱいになった。(こんな若い社員たちがいる会社を、自分は去ることになるのか…)史郎は、少し寂しい気持ちになった。
その日の夜、史郎は自宅で、自分のキャリアについて、改めて考えた。これまで、 千葉史郎は、編集者として、多くの本を世に送り出してきた。しかし、それらはすべて、他人の作品だった。自分自身の作品を、世に出したいという思いが、心の奥底にあった。
(そうだ…自分自身で本を書いてみよう)史郎は、決意した。これまで培ってきた経験と知識を生かして、若い世代に向けたビジネス書を書いてみよう。
彼は、すぐにパソコンに向かい、企画書を書き始めた。タイトルは、「雨上がりの約束」。困難な状況を乗り越え、未来に向かって進むことの大切さを伝える本にしようと考えた。
数か月後、史郎は、完成した原稿をビジネス教育出版社に持ち込んだ。社長は、史郎の原稿を読み、感動した。それは、これまでのビジネス教育出版社の出版物とは一線を画す、情熱と希望に満ちた作品だった。
「千葉君、これは素晴らしい。ぜひ、うちで出版させてほしい」社長は、興奮した様子で言った。
史郎は、社長の申し出を快諾した。そして、「雨上がりの約束」は、ベストセラーとなった。史郎は、著者として、新たな人生を歩み始めた。
それから数年後。 千葉史郎は、若い起業家たちを支援するNPO法人を立ち上げた。彼は、「雨上がりの約束」の印税を元に、セミナーや勉強会を開催し、多くの若者たちを勇気づけた。
ビジネス教育出版社も、業績を回復し、再び活気を取り戻した。田中と佐藤は、それぞれの部署でリーダーとなり、会社の発展に貢献した。そして、ビジネス教育出版社は、史郎の活動を全面的にサポートした。
雨上がりの空には、美しい虹がかかる。史郎は、これからも、多くの人々に、希望と勇気を与え続けるだろう。雨の後の澄み切った空気のように、爽やかな笑顔で。
千葉史郎的ビジネス教育出版社的命运都将继续谱写下去。