海獣の導き

Fantasy 35 years old and up 500 to 1000 words Japanese

Story Content

夜の帳が降り、荒れ狂うは黒々と牙を剥いていた。老いた漁師、源蔵は古びた木造の灯台の灯りを頼りに、漁から帰還しようとしていた。齢を重ね、体は衰えを知らぬ勢いで軋むが、その目は、長年海と向き合ってきた者の鋭さを保っていた。
彼は妻を亡くして以来、この孤独な漁で生計を立ててきた。かつては賑やかだった船も、今では古ぼけた相棒として、静かに彼の隣に寄り添っている。網を引くたびに、海の記憶が蘇り、亡き妻の笑顔が脳裏をよぎる。
その夜、嵐は容赦なく源蔵の小さな漁船を揺さぶった。雷鳴が轟き、激しい雨が視界を遮る。彼は必死に舵を握りしめ、何とか港へと船を進めようとした。
突然、目の前に巨大な波が現れた。避けようとするも、老いた体は思うように動かない。覚悟を決めた瞬間、何かが彼の船を押し上げた。それは驚くべきことに、巨大なアザラシだった。
アザラシは力強く船を押し、波を乗り越えさせた。源蔵はアザラシの不思議な力に驚きながらも、感謝の念を抱いた。それはまるで、亡き妻が遣わした使いのようだった。
嵐が少しずつ弱まり始めた頃、アザラシは静かに海へと姿を消した。源蔵はしばし呆然と立ち尽くし、今夜の出来事を信じられない思いで反芻した。
翌朝、港には太陽が燦々と降り注ぎ、昨夜の嵐が嘘のようだった。源蔵は浜辺に佇み、静かに海を見つめた。彼の心には、今まで感じたことのない不思議なエネルギーが満ち溢れていた。
その日から、源蔵は毎日に出るようになった。彼は以前のように漁をするだけでなく、の清掃活動や海洋保護にも力を入れるようになった。亡き妻への愛と、アザラシへの感謝の気持ちを胸に、彼は新たな生きがいを見つけたのだ。
ある日、彼は再びあのアザラシに遭遇した。アザラシは彼の船の周りを優雅に泳ぎ、まるで感謝の気持ちを伝えているようだった。源蔵は静かに微笑み、に手を合わせた。
数年後、源蔵は穏やかな老後を送っていた。彼は村人たちから尊敬され、の守り神として崇められていた。彼の語るアザラシの物語は、村人たちの間で語り継がれ、迷いを抱えた人々の心を癒し続けた。そして彼は、海へと旅立った。