Drama
21 to 35 years old
2000 to 5000 words
Japanese
「……ここは?」ショウはぼんやりとした意識の中で呟いた。見慣れない白い天井、消毒液のような匂い。ここはどこだ?
目を開けると、目の前に看護師と名乗る女性が立っていた。「目が覚めましたか、ショウさん。あなたは……亡くなられたんです」
彼女の説明によると、ショウは死後の世界にいるらしい。しかし、そこは天国のような場所ではなく、生前の記憶を保持したまま、ある種の『療養所』のような場所だった。
ショウは状況を飲み込むのに時間がかかった。自分が死んだ? そんな実感は全くなかった。むしろ、酷い夢を見ているような、そんな感覚だった。
彼は促されるままに療養所の個室に案内された。部屋は殺風景で、ベッドと小さなテーブル、それに薄型のテレビがあるだけだった。窓の外には、生前の世界と変わらない、ありふれた街並みが広がっていた。
しばらくの間、ショウはただぼうぜんと窓の外を眺めていた。自分がなぜ死んだのか、まるで思い出せなかった。いや、思い出そうとしなかったのかもしれない。
療養所には、さまざまな年齢や性別の人がいた。彼らは皆、何らかの形で死を受け入れられず、心の傷を抱えていた。
最初は戸惑っていたショウだったが、徐々に療養所の生活に慣れていった。食事は美味しく、必要なものは何でも支給された。しかし、心の奥底にある孤独感は、日に日に増していくばかりだった。
やがて、ショウは部屋に引きこもるようになった。食事の時間以外は、誰とも話さず、テレビを見ているか、ぼんやりと窓の外を眺めているだけだった。時間はゆっくりと、そして残酷に過ぎていった。
そして、ショウが療養所の個室に引きこもってから、8年の月日が流れた。
8年間、彼は誰とも交流せず、ただ孤独と向き合っていた。生きている時から抱えていた孤独感は、死後の世界に来てから、さらに増幅されていた。
(死んだら楽になると思っていたのに……結局、どこに行っても苦しいだけじゃないか)
そんなある日、ショウの部屋のドアをノックする音が聞こえた。「……誰だ?」
ドアを開けると、そこに立っていたのは、成香と名乗る若い女性だった。彼女は明るい笑顔でショウに話しかけた。「こんにちは、ショウさん。私はこの療養所のボランティアをしている成香です」
成香は強引にショウを外に連れ出した。最初は戸惑っていたショウだったが、成香の明るさと優しさに触れるうちに、少しずつ心を許していった。
成香はショウに療養所の庭を案内したり、一緒にカフェでお茶を飲んだり、様々なアクティビティに誘ったりした。彼女はショウに、もう一度人生(というより、死後の生)を楽しむように促した。
「ショウさん、あなたはまだ死んだことを受け入れられていないんですね」成香は優しくショウに言った。
ショウは何も答えられなかった。彼は自分がなぜ死んだのか、思い出せないふりをしていた。しかし、心の奥底では、自分が向き合うべき問題から逃げていることに気づいていた。
成香との交流を通じて、ショウは少しずつ変わっていった。閉ざされていた心が少しずつ開き、再び人と関わることの喜びを思い出し始めた。
ある日、成香はショウに問いかけた。「ショウさん、あなたの死因は何だったんですか?」
ショウは沈黙した。長い沈黙の後、彼はようやく口を開いた。「……僕は……焼身自殺をしたんだ」
言葉にならない嗚咽がショウの口から漏れた。彼は自分が犯した罪の重さに、今更ながら気づかされたのだ。
「……息子を……残して……僕は……死んでしまった」
彼は泣き崩れた。 成香はショウを抱きしめ、優しく背中をさすった。「大丈夫ですよ、ショウさん。あなたはもう一人じゃない」
ショウは成香に支えられながら、自分の過去と向き合うことを決意した。彼は療養所のカウンセラーの助けを借りながら、少しずつ心の傷を癒していった。
彼は自分の死の原因、それは受容すべき過去であることを学んだ。しかし、それは容易な道のりではなかった。
数ヶ月後、ショウは成香と共に、死後の世界にある図書館を訪れた。そこには、生前の世界のあらゆる情報が記録されているという。
ショウは恐る恐る、自分の名前を検索した。画面には、ショウが生きていた頃の記事が表示された。記事には、彼の焼身自殺の記事と共に、息子である健太の名前が書かれていた。
記事を読むうちに、ショウは衝撃的な事実を知った。健太は父親の死後、心を閉ざし、孤独な生活を送っているというのだ。
ショウはいてもたってもいられなくなり、成香と共に、健太の住む街へと向かった。 死後の世界から生前の世界を観察することは許可されていた。
街に着くと、ショウはすぐに健太の姿を探し始めた。そして、街の一角にある公園で、健太を見つけた。彼はベンチに座り、物思いにふけっているようだった。
ショウは健太に近づこうとしたが、成香に止められた。「ショウさん、あなたはもう生きた人間ではないんです。彼に触れることはできません」
ショウは落胆した。しかし、彼は諦めなかった。彼は何とかして、健太に自分の思いを伝えようとした。
数日後、ショウは再び健太のいる公園を訪れた。そして、彼は健太がショウの使っていた古いライターを手に持っているのを目撃した。
健太はライターを見つめ、何かを決意したような表情を浮かべていた。彼は立ち上がり、人気のない場所へと歩き出した。
ショウは嫌な予感がした。彼は慌てて健太を追いかけた。
健太がたどり着いたのは、ショウが自殺した場所と同じ場所だった。彼はライターを手に持ち、自分の服に火をつけようとした。
その瞬間、ショウは 死後の世界のルールを破り、ありったけの力を振り絞って叫んだ。「健太! だめだ! 死ぬな!」
その声が健太に届いたのかどうかは分からなかった。しかし、健太の手が止まった。彼はライターを落とし、その場に座り込んで泣き始めた。
ショウは安堵した。彼は 成香 に支えられながら、健太の姿を見守った。そして、健太がゆっくりと立ち上がり、家路につくのを見送った。
その後、ショウは 成香 と共に療養所に戻った。彼は 健太 に直接会うことはできなかったが、彼の心が救われたことを知っていた。
ショウは 死後 の世界で、再び生きる意味を見出した。それは、自分の過去と向き合い、過ちを受容し、そして愛する人を守ることだった。
彼はこれからも 療養所 で暮らし続けるだろう。しかし、かつての孤独な ショウ はもういない。彼の心には、希望の光が灯っていた。
死という悲劇から始まった物語は、受容と再生という希望へと昇華したのだ。