Drama
21 to 35 years old
2000 to 5000 words
Japanese
薄暗い部屋で、僕は目を覚ました。ここはどこだ? 見慣れない白い壁、無機質なベッド。まるで病院のようだ。
頭がガンガンと痛む。それよりも、もっと深い場所が締め付けられるように痛かった。生きていた時の記憶が、断片的に蘇ってくる。妻の罵声、息子の泣き顔、そして… 死後の世界。
目の前に、白い服を着た女性が現れた。彼女は優しく微笑み、僕に語りかけた。
(女性)「ここは療養所です。死後の世界で、あなたが心を癒し、新たな一歩を踏み出すための場所。」
療養所… か。僕は転生することもできず、ここに留まるのか。
僕はEPR97809、ショウと呼ばれている。 現世では普通のサラリーマンだった。少なくとも、表面的には。
死んだ原因は… 焼身自殺 だ。 思い出したくもない。
療養所での生活は、現世とほとんど変わらなかった。朝食、軽い運動、そしてカウンセリング。だが、僕は誰とも話さず、ただ個室に閉じこもっていた。
(僕)「どうして僕は、こんな場所にいるんだ。 死んだ のなら、楽になれるはずだったのに…。」
一日、また一日と時間が過ぎていく。 頭痛、腹痛、下痢…。 体調不良を理由に、僕はさらに深く引き籠もってしまった。
ある日、ノックの音が聞こえた。 ドアを開けると、そこに立っていたのは、見たことのない女性だった。
(女性)「こんにちは、ショウさん。 私の名前は成香。 今日からあなたの担当をすることになりました。」
僕はドアを閉めようとしたが、成香さんはそれを制止した。
(成香)「少しだけ、お話しませんか? あなたのことを、もっと知りたいんです。」
僕は戸惑った。誰かと話すなんて、もう何年もしていない。
(成香)「そんなこと、ありません。 閉じこもっているあなたは、辛くないですか? 」
僕は押し黙った。 辛いに決まっている。 でも、それを口に出す勇気はなかった。
(成香)「無理に話す必要はありません。 ただ、私はいつでもここにいます。 あなたの話を聞く準備はできています。」
その日から、成香さんは毎日、僕の部屋を訪れた。 最初は何も話さなかった僕だったが、彼女の優しい笑顔に、少しずつ心を許していった。
(成香)「あなたは、どうしてここにいるんですか? つまり…死因は何だったんですか?」
僕は躊躇した。 どうしても、あの日のことを思い出したくなかった。
(成香)「無理強いはしません。 ただ、死んだことと向き合わなければ、あなたは前に進むことはできません。」
僕は俯いた。 自分が死んだこと… 認めたくなかった。 認めてしまえば、もう二度と現世に戻れない気がしたから。
成香さんの根気強い説得と、穏やかな雰囲気に包まれて、僕は少しずつ過去を語り始めた。 仕事のこと、妻のこと、そして、息子のこと。
(僕)「僕は… 妻から、長年虐待を受けていたんです。」
成香さんは、何も言わずに僕の話を聞いていた。時折、目に涙を浮かべながら。
(僕)「彼女は、いつも僕を罵倒し、人格を否定するような言葉を投げつけてきました。 僕は、それに耐えるしかありませんでした。 息子のために…。」
(僕)「でも… もう、限界だったんです。 ある日、僕は… 家に火をつけたんです。 そして…。」
(僕)「僕は… 息子を、置いて死んでしまった…。」
僕は、声を上げて泣いた。 後悔、悲しみ、そして、罪悪感。 様々な感情が、僕の胸の中で渦巻いていた。
(成香)「あなたは、悪くありません。 辛かったですね… 本当に…。」
その日を境に、僕は少しずつ変わっていった。 成香さんと話す時間が増え、他の療養者とも交流するようになった。 個室に閉じこもる時間も減り、外に出ることも苦ではなくなった。
(成香)「それは… 簡単なことではありません。 現世との交流は、原則として禁止されていますから。」
(僕)「分かっています。 でも… 一目だけでも、息子の顔が見たいんです。 そして… 謝りたいんです。」
成香さんは、しばらく考えた後、決意したように頷いた。
(成香)「分かりました。 私にできることがあれば、協力します。」
成香さんの協力もあり、僕は、息子と再会するための準備を始めた。 現世との繋がりを回復させ、息子の夢の中に現れるための訓練を受けた。
僕は、息子の夢の中に現れた。 彼は、もう大人になっていた。
(僕)「… ああ、 ショウだ。 大きくなったな…。」
(僕)「… すまなかった。 お前を、置いて死んでしまって…。」
(息子)「父さん… 僕は、父さんがいない人生なんて、考えられない…!」
息子は、絶望に打ちひしがれていた。 その姿を見て、僕は胸が締め付けられるようだった。
(息子)「父さん… 僕も… 父さんの後を追って…。」
(僕)「生きてくれ! 生きて、幸せになってくれ! それが… 僕の、最後の願いだ…!」
僕の言葉は、息子の心に響いたようだった。 彼は、涙を拭い、静かに頷いた。
(息子)「… 分かった。 父さんのために… 生きる…。」
その言葉を聞いて、僕は安心した。 そして、夢から覚めた。
目を覚ますと、そこは療養所の個室だった。 だが、僕の心は、以前とは全く違っていた。 過去のトラウマと向き合い、死を受け入れ、そして、息子の未来を信じることができるようになったからだ。
僕は、療養所を出て、新たな人生を歩み始めた。 現世でやり残したことをやり遂げ、たくさんの人々と出会い、笑い、そして、生きることの喜びを味わった。
死後の世界にも、希望はあった。 そして、 受容 があったのだ。
たとえ過去にどんな過ちを犯したとしても、未来は変えられる。 僕は、それを身をもって証明したのだ。